自己分析で「言葉にならない」ことを言葉にしていく
今回は、自分のことをアピールする相手は「あなたのことを知らない人」であるということ、そして、それを踏まえて「相手が求めていることにきちんと答える」ことについて考えてみたい。
「自分のことを知らない相手にアピールする」さらには「自分のことを自分がイメージしている通りに理解してもらう」ということを、日々の生活の中で実践できていると言える人は、相当少数なのではないだろうか。
しかし、それは当然のことであろう。なぜなら、敢えて自らそんな経験をする必要が無かったからである。例えば、家族や親類などは、物心がついたころから身近にいて「理解しよう」としなくても、自然にお互いのことを意識できていただろうし、友人などは、お互いに共通する話題があったり、考え方が似ていたりするから親しくなった(逆に言えば、そうでない人とは親しくならない)のだろう。
このような人たちに自分が伝えたいこと、分かってもらいたいことを理解してもらうのはそんなに難しいことではない。それは言うまでもなく、日常生活での関わりの中で、あなたの言動の特徴を理解しているからであり、あなたの伝え方が多少不十分であっても、「言葉にならない部分」を聞き手自身が補いながら聞いてくれているからである。つまり、伝える側が工夫をしなくてもおおよそのことは理解してくれるし、もし、誤解があったとしても修正も難しくないだろう。
この「言葉にならない部分」を補足してくれる度合いは、あなたと一緒に過ごした時間の長さに比例するのではないだろうか。友人と言えるほどではない「知り合い」程度の人より、深い付き合いのある友人、友人よりも普段一緒に生活している家族の方が、言葉にならない部分も含めて理解をしてくれている。だから今までは特にそのようなことを考えなくても毎日を過ごせてきただろう。
しかし、これからはそういうわけにはいかない。社会人になれば、あなたのことを全く知らない人とも、きちんとコミュニケーションできることが求められる。
ここで求められる「社会人としてのコミュニケーション力」は、友達などに対して発揮するコミュニケーション力とは大きく異なり、「初対面の段階」から自分の伝えるべきことを相手に理解してもらえるように伝えられるかどうかが重要なのである。特に「社外」の人とのやり取りの場合、初対面の段階で、自分の伝え方が良くなかったために相手の理解を得られなければ、その後、話を出来る機会も得られない(要は相手に「この人の言っていることはよく分からないから、何度も会って話をしても時間のムダ…」などと思われれば、それで終わり)という可能性もあるのだ。
そのような意味で、就職活動において自分のことを知らない採用担当者に自己アピールをすることは、そのような「社会人として求められるコミュニケーション力をどの程度身に付けているのか」を確認されているとも言えるのではないだろうか。
これは「社会人として求められる…」としているが、だからと言って「自分はまだ社会人ではないからできない」という理屈が許されるわけではない。「知らない人に自分の言いたいことを伝える力」については、性格的な面からの得意・不得意、また環境や経験によって無意識のうちに養われているといった場合もあるのだが、たとえそれが得意な方ではなくても、自己分析を行い、実際の就職活動を進めていく中で、その力を身につけていくことは十分に可能である。
先程、家族や友人は「言葉にならない部分」を補って理解してくれると述べたが、そのまま言い換えれば、あなたのことを知らない人(採用担当者)は「言葉にならない部分」を補うことが出来ない人である。そのような人に、自分のことを的確に理解してもらうためには、家族や友人なら言葉にしなくても理解してくれた部分についても、きちんと「言葉で」表現していかなければならないということなのである。
「自分が思っていることを言葉にするなんて簡単なことじゃないか」…と思われるかもしれないが、これが実際に言葉にしようとするとなかなか思うようにいかないのである。なぜなら、感覚的なことを「単にそのまま言葉にするだけ」で、相手が理解してくれるわけではないからである。
例えば、あなたが知らない人が目の前に現れて、いきなり「私はあなたと気が合うので友達になってください。」と言われたら「何を理由に『気が合う』と言えるのか…?」と思うだろう。その上、もし「私が『気が合う』と言っているのに、それを理解してくれないのは、あなたの私に対する理解力が足りないからです。」と言われたらどうだろうか…おそらくあなたは「これで理解しろという方が無理な話だろう!」と思うか、相手のことを変わった人だと思うに違いない。
今の例は極端ではあるが、「感覚的なことをそのまま言葉にする」というのは、言うなればこのようなことであり、やはり「単に言葉にする」だけでは不十分なのである。思いや考えを伝える時には、その「理由」「裏付け」「根拠」の部分まではっきり示す必要があり、さらにそれは「自分が持っているイメージと出来るだけ近いイメージを相手も持てるように」しなければならない。
これも一つ例を挙げてみよう。「人前で話をすることが得意で、実際に人前で話す経験もある」と言っても、その話をした経験というのが「数人の前」でのことなのか「数十人の前」でのことなのか「数百人の前」でのことなのか、その話の内容がどのようなものなのか、さらには聞いている人がその話に対してどのように評価しているのか…などといったことによって、その言葉の受け止め方、そこから持つイメージというのは大きく変わってくるだろう。それを具体的な言葉で「理由」「裏付け」「根拠」として示していくことで、自分と相手の持つイメージの差をどれだけ埋められるかが自己アピールでは重要なのである。
さらに、特に就職活動における自己アピールの場合、あなたが過ごしてきた十~二十数年の中から、文書なら数行~十数行、口頭でも数分~数十分という限られた分量で理解してもらわなければならないのである。…ということは、言葉を相当しっかりと精査していかないと、うまくまとめることは難しいだろう。
だからこそ、その前の自己分析の段階で、過去から現在の自分自身についてはっきりさせていくことが重要になってくるのである。それは「自分自身がやってきたことを振り返る」「自分自身の長所や強み」を挙げてみることだけではなく、それについて深く考えてみる…自分自身に「なぜ?」と問いかけ、それに対する「自分なりの答え」をはっきりさせていくことである。
この作業というのは、非常に時間もかかるし、なかなか「自分なりの答え」が出てこない場合もあって「大変だ」と思うこともあるだろう。しかし「大変なこと」だからこそ、それにしっかり取り組めたかどうかで実際の就職活動の段階で差が出てくるのである。そこをしっかり意識しながら、前向きに自己分析に取り組んでいただきたいものである。
◎次回(自己分析編・第5回)は12月1日更新予定となります。
バックナンバー
第11回 | (2015年2月2日掲載 ) | 面接における自己表現② |
第10回 | (2015年1月26日掲載 ) | 面接における自己表現① |
第9回 | (2015年1月19日掲載 ) | 「志望動機・志望理由」をどうまとめるか |
第8回 | (2015年1月13日掲載 ) | 「自分の強み・長所」をどうまとめるか |
第7回 | (2015年1月5日掲載 ) | 「学生生活で力を入れたこと」をどうまとめるか |
第6回 | (2014年12月8日掲載 ) | 前向きに自己分析を進めていくための切り口(2) |
第5回 | (2014年12月1日掲載 ) | 前向きに自己分析を進めていくための切り口(1) |
第4回 | (2014年11月24日掲載 ) | 就職活動における自己分析とは(3) |
第3回 | (2014年11月17日掲載 ) | 就職活動における自己分析とは(2) |
第2回 | (2014年11月10日掲載 ) | 就職活動における自己分析とは(1) |
第1回 | (2014年11月1日掲載 ) | 自己分析をする「意味」について考える |