
【第3回】
就職活動に対する心構え②~
第三者の客観的なアドバイスをどう活かすべきか
就職活動の準備を進めていくと、だんだんと、自分だけでは分からなくなってくることも増えてくるだろう。そのような時、大学の職員や専門の相談員などにアドバイスを受ける機会もでてくるのだろうが、今回はそのアドバイスの有効に活用していくために持っておくべき意識について考えていきたい。
相談内容も自己理解の基本的なところから面接対策まで、その相談者の状態によって多種多様ではあるのだが、その中でも難しいのは「相談する側が自分で思っている状態」と「相談を受けている側が話を聞いて認識する状態」のギャップが大きい場合であろう。少し回りくどい言い方をしたが、もう少しはっきりと言えば、現状の「レベル」について、相談者が明らかに自分自身のことを高く見積もってしまっているケースである。
ひとつ事例を挙げてみよう。
Kさんは、相当数の会社にエントリーをしたものの、ほとんどが書類選考に通らないため、私にアドバイスを求めに来た。いくつかのエントリーシートの内容を確認してみたが、質問から「採用側が知りたいこと」をくみ取ることが出来ていないためにかなり的外れな内容になってしまっており、その内容からは人柄をイメージすることが難しいと感じられた。
そこで、理解できない部分をストレートに指摘していたのだが、だんだんと不満そうな表情になり、そして出てきた言葉が 「それはそういうことじゃなく、こういうことなんですよ!読んでて何故分からないんですか?」
さすがに、この時は、アドバイスをしている私も「それが分かるかどうかを判断するのは君じゃなくて読む側だ!読む側がどう思うかがある意味全てなんだ!…じゃあ何か?君は、応募書類を読んでいる人のところまで行って、今言ったように『そうことじゃない』って説明してくるのか?」と思わず厳しい言葉を発してしまった。
多少、感情的になってしまったことについてはアドバイスする側としても素直に反省すべきところであるが、それはさておき、このようなアドバイスをしていると、程度の差もさまざまだが「周りが自分のことを理解してくれるのは当たり前のこと」だと思っているのではないか…という人が時々見受けられる。
しかし、現実的に「自分は、自分の周りにいる人のことを人一倍理解しよう」と普段から意識している人がどれだけいるのだろうか。家族や親類に対してならともかく、少なくとも他人に対してそういう意識を持っていると自信を持って言えるのであれば、それはものすごい強みだといえるぐらいのことである。もし「周りが自分のことを理解してくれるのは当たり前のこと」という考え方を多少なりとも持っていたとしたら、それはすぐに改めたほうがよい。「周りの人はあなたの全てを理解できない」のが当たり前なのである。
だから「自分のことをきちんと知ってもらい」と思ったら、とにかく、まずは自分の方が相手に知ってもらうための工夫や努力をするべきなのである。ましてや、採用側にとっての採用選考というのは「数多くの知らない人(応募者)」のことを、限られた情報の中で少しでも理解して、この会社の力になってくれる可能性があるかを判断していくための作業である。その過程においては、その「限られた情報」で少しでも自分のことを理解してもらうために、努力するべきなのは「自分」であるということはアピールの大前提だと言ってもよい。
しかし、Kさんはそこを全く理解せず「自分のことを分からないのは相手の理解力不足のせい」と思っていた。繰り返しになるが、このようなケースにおいて問題があるのは、ほぼ間違いなく、相手にしっかり自分のことを伝えられない自分の方なのだ。
また、もう一つ意識しておくべきこととして、採用側はほとんどの場合、不採用者に対して「なぜ次の選考に進めない(採用に至らない)」という判断をしたのか、その細かい理由などをいちいち応募者には伝えることはしない。正直、採用側だって時間が限られている中で、わざわざ応募者一人一人について、不採用の原因分析などしないだろう。例えば、Kさんのケースでも、その応募書類に書かれていることがよく分からないと思った時に採用側は「これはどういう意味だろう?繰り返し読んでみて、彼の立場になってしっかり考えてみよう」…などとは思わない。「何かよく分からないな…人柄が全く理解できない人は、こちらも怖くて採用できないよ」ということで、不採用という結論が出て終わりである。
前置きが相当長くなってしまったが、第三者のアドバイスを受けたほうがよいと言われる理由はいくつかあるが、今までの話を踏まえて考えると、その大きな理由の一つとして、実際の採用選考では知ることが出来ないであろう「採用側が『採用選考では声に出さないこと』を声に出してもらう」ということが挙げられるのではないだろうか。
もちろん、採用担当者とアドバイスをする人は全く同じ物の見方・考え方をするわけではなく、さらに、実際の採用選考においては、その会社や組織の判断基準があるはずなので、アドバイスをする人が「採用担当者の代わりに出してくれた声」の全てが必ずしも正しいといえるわけではないが、それでも、採用側が学生に求める「基本的に押さえておいてほしいポイント」というのは、業界や会社を問わず共通するところが多い。その点からみると、やはり、第三者のアドバイスをしっかり受け止め、そのアドバイスを活かすというのはプラスに働くことが多いのではないかと思う。
あと、私なりに、第三者にアドバイスを求めるにあたって意識しておくとよいと思われるポイントを3つほど挙げておく。
① 「厳しいこと」を言ってくれる人はむしろありがたいと思ったほうがよい
② 簡単に「答え」を示してくれる人に頼りすぎると、結局は後で自分が苦労することになる
③ アドバイスは複数の人からもらったほうがよい
①は言い換えれば、厳しい人ほど、採用側の「声に出さない声」をしっかり伝えてくれる人ということが言える。厳しいことを言われれば、正直、その瞬間は気持ちが萎えてしまうことや不愉快な気分なってしまうこともあるだろうが、準備の段階で出来る限り問題点を洗い出してもらい、修正すべきところをきちんと修正できておいたほうが、望ましい結果をもたらすことが多くなるはずである。
②は、ある意味で①とは逆の話である。就職活動に関して考えていくべきことはいろいろとあるのだが、そのどれについても絶対的な100%間違いのない「答え」というものはないと思う。よく「答えは自分の中にある」ということも言われるが、これはまさにその通りである。「答えのようなもの」を示してくれると、その場では分かったような感じにはなるが、それで安心してしまい、いざ行動する段階になって「教えてもらった通りにならない…」ということになる場合が多いのである。そこから自分なりに考え始めても、すでに自分で考え、自分なりの行動で示せる人に比べたら大きな差がついてしまっているのだ。だったら最初から「自分なりに考えてみろ」と言ってくれる人のアドバイスをしっかり受け止めていった方が、実際の就職活動で自分自身に活かせる「本当の力」を身につけられることになるだろう。
③については、先程少し触れた通り、アドバイスの基本的なポイントが人によって大きく変わるということはあまりないものの、全ての人が完全に同じような見方・考え方をするわけはないので、ある一人のアドバイスが「絶対」ではないと言える。また、アドバイスをする人も、どうしても「その人自身の経験則」に基づいたアドバイスになってしまうため、より的確なアドバイスが出来る部分と、そうでない部分が出てくるのはやむを得ないところである。そのようなことからも、複数の視点からアドバイスを得ていくことは、自分なりに考えていく手掛かりを増やしていくことになる…と言える。また、複数の人にアドバイスを求めると、ある人と別の人で、全く違うことも言われた…ということがあるかもしれないが、やはり、どちらが正しい・正しくないと一概に言い切れるわけではないので、その時は、自分なりにそれぞれのアドバイスの活かせる部分を活かすようにしたい。
※このコーナーで取り扱う内容は、あくまで一般的な事項として取り上げるものであり、企業・団体などにおける個別の採用選考において、具体的な効果・成果などを保証するものではありません。
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第8回 | (2014年12月22日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑧ |
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