
【第4回】
就職活動に対する心構え④~
先輩などの「就職活動体験談」をどう活かすべきか
特に、大学などで行われる就職支援行事の中で、学生さんが熱心に参加する行事の一つが「内定者報告会」と言われるものである。また、就職情報サイトなどでも「内定者の声」などの情報は数多くみられる。要は「この会社の内定を得るために自分はどのようにしてきたか」という「成功に至るまでの体験談」なのであるが、確かに一般論的な情報に比べても、自分にとって身近な存在(大学生であれば同じ大学に在籍している先輩)が具体的に話してくれるだけに、明らかに「生々しさ(リアリティ)」を感じることができるのは間違いないし、それで就職への意識や意欲が高まるのであれば、非常に意味がある話だと言えるだろう。しかし、その話の受け止め方を間違えてしまうと、かえって逆効果になる場合もある。
以前アドバイスをした学生にこんな人がいたので事例として取り上げてみよう。
S君は、熱心に就職活動に取り組んでいるもののなかなか採用選考で先に進めずにいた。うまくいかない原因を探るため、自分なりにどのような工夫をしているのかを尋ねたところ、「就職活動に成功した人の声や内定者体験談を基に、その行動の傾向を分析して、自分もそのように活動しています」という答えが返ってきた。
分析と言えば聞こえは良いのだが、さらに細かく聞いていくと、結局のところ「うまくいった人のマネをすれば自分もうまくいく」と考えて、体験談などで聞いた話と全く同じことをしていただけのことだった。残念ながら、それではうまくはいかないだろう…
先に言っておくが「うまくいった事例を参考にしてはいけない」ということではない。参考に出来ることは大いに参考にすべきだとは思うが、重要なのは、聞いたことをそのまま真似するのではなく、あなた自身の持っている人柄や特性などに合わせていく、つまり「自分なりにアレンジを加えて」いかなければならないということである。
その人(内定者)は、体験談の中で挙げた取り組みや工夫でうまくいったのだろうが、あくまで、それは「その人だから」うまくいったのである…繰り返すが「その人だから」というところが非常に重要である。つまり、その体験談で出てきた言葉だけでは掴みきれない部分…その人の人柄や強み、仕事に対する考え方やその会社で働きたいという熱意、身につけている能力…など、様々な側面から採用側にアピールし、その結果、採用側に「将来的にウチの会社で戦力になるであろう」という判断をされたのであって、決してその「体験談で示されたことだけ」が採用の決め手の全てではないはずなのである。
むしろ、採用の決め手になるような「核心」の部分というのは、言葉では表現しにくい、感覚的な要素が強いのではないのだろうか。一言で言えば「フィーリング」である…例えば「この人は将来的に『何か』やってくれそうだ」とか「この人は『何か』いいものを持っている」とか「この人がオフィスにいてくれたら『何か』雰囲気がよくなりそう」とか…『何か(なんか・なにか)』の部分は、各企業それぞれで価値観や判断基準が違うということも含め、明確に言葉に表すのは難しいところである。
根本的なことだが、企業や組織は人の集まりであるし、採用選考も「人」が行っている以上、人としての「感覚的な要素」が介入してくるのはどうしても避けられないところである。物事全てが理屈で解決できるわけではない。もし、内定者の体験談通りに行動すれば内定が得られるのであれば、誰もが体験談の通りにすれば内定を得られることになってしまうし、それでは採用選考自体が成り立たなくなってしまうだろう。
万が一そうなったら、内定者体験談の意味そのものが無くなってしまうわけだが、ではなぜ、このような情報が必要なのか。また、企業側も新入社員や若手社員の声を会社案内や求人のページに情報として出すのか?…それぞれの人が持つ人柄や強みは一人一人違うが、企業理念や企業風土、事業方針などは共通認識として社員全員が同じ理解をしなければならない。ただ、会社として掲げている言葉をそのまま示しても、特にその会社で働いていない人に、言葉の意味だけではなく、その言葉に込められた思いや考えまで理解してもらうのは難しい。だから、この会社で働きたいと思っている人に対して、それを少しでも理解してもらうために、身近に感じる事例を挙げて「会社として求める人材像の大枠」を示している…というところではないだろうか。
だから、内定者の体験談や内定者・社員の声というのは、その情報を基にして『自分自身に重ね合わせてみる』ことが必要なのである…「自分が」この会社に合いそうなのか、「自分の持っている強みを活かして」将来的に戦力になれそうなのか、もし、明らかに足りない部分があると感じたら、これからそれを高めていくために何をしていかなければならないのか…などを考えていくための材料であると考えていきたい。
言うまでもなく、採用側も、これから採用する人に体験談を話した内定者と100%同じようなキャラクターや行動を求めていない…というより「人はそれぞれ違う」のだから、そんなのは無理に決まっていると思っているだろう。
就職活動のアピールにおいて重要なのは、「『自分自身』がその会社や組織の求める人材像にどの程度近いのか」を採用側に理解してもらうことである。だからこそ、成功事例を真似るということではなく「自分自身の成功事例」を作り上げるつもりで「自分が自信を持ってその会社にアピールできる部分を見出していく」、そしてそれを考えていくための、あくまで『参考になる情報』として、体験談を活用することを意識していただきたい。
※このコーナーで取り扱う内容は、あくまで一般的な事項として取り上げるものであり、企業・団体などにおける個別の採用選考において、具体的な効果・成果などを保証するものではありません。
バックナンバー
特別編・後半 | (2015年4月27日掲載 ) | 一口に「就職活動がうまくいかない」と言っても…(2) |
特別編・前半 | (2015年4月20日掲載 ) | 一口に「就職活動がうまくいかない」と言っても…(1) |
第24回 | (2015年4月13日掲載 ) | 採用選考の面接に向けて意識したいこと⑤ |
第23回 | (2015年4月6日掲載 ) | 採用選考の面接に向けて意識したいこと④ |
第22回 | (2015年3月30日掲載 ) | 採用選考の面接に向けて意識したいこと③ |
第21回 | (2015年3月23日掲載 ) | 採用選考の面接に向けて意識したいこと② |
第20回 | (2015年3月16日掲載 ) | 採用選考の面接に向けて意識したいこと① |
第19回 | (2015年3月9日掲載 ) | エントリー・採用選考に向けて意識したいこと⑥ |
第18回 | (2015年3月2日掲載 ) | エントリー・採用選考に向けて意識したいこと⑤ |
第17回 | (2015年2月23日掲載 ) | エントリー・採用選考に向けて意識したいこと④ |
第16回 | (2015年2月16日掲載 ) | エントリー・採用選考に向けて意識したいこと③ |
第15回 | (2015年2月9日掲載 ) | エントリー・採用選考に向けて意識したいこと② |
第14回 | (2015年2月2日掲載 ) | エントリー・採用選考に向けて意識したいこと① |
第13回 | (2015年1月26日掲載 ) | 「雇用される」ということについて③ |
第12回 | (2015年1月19日掲載 ) | 「雇用される」ということについて② |
第11回 | (2014年1月13日掲載 ) | 「雇用される」ということについて① |
第10回 | (2015年1月5日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑩ |
第9回 | (2014年12月29日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑨ |
第8回 | (2014年12月22日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑧ |
第7回 | (2014年12月15日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑦ |
第6回 | (2014年12月8日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑥ |
第5回 | (2014年12月1日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑤ |
第4回 | (2014年11月24日掲載 ) | 就職活動に対する心構え④ |
第3回 | (2014年11月17日掲載 ) | 就職活動に対する心構え③ |
第2回 | (2014年11月10日掲載 ) | 就職活動に対する心構え② |
第1回 | (2014年11月1日掲載 ) | 就職活動に対する心構え① |