
【第18回】
エントリー・採用選考に向けて意識したいこと⑤~
「ビジネスマナー」は何のためのマナーなのか(前半)
いよいよ3月を迎え、合同・個別の企業説明会が連日開催されるようになってくる。また、特に今年度は、広報活動開始の後ろ倒しになった初年度でありながら、各企業の採用意欲も非常に高い状況が続く中で、事実上の採用選考を行っていく企業も出てくることも大いに考えられる・・・つまり、企業の人事担当者に直接的に接触していく場面も、皆さんがイメージしているより、かなり早めに出てくる可能性がかなり高いということになる。
それだけに、いわゆる「ビジネスマナー」というものに対しても、意識を向け始めている人が増えてきているのではないだろうか。そこで、今回と次回は、このビジネスマナーについて考えていきたい。特に学生の皆さんは、今までの生活の中ではあまり意識をしてこなかった部分だという方も多いと思われるので、いろいろと不安を持つこともあるだろうが、この機会に、ビジネスマナーの「本質」を正しく認識しておくことで、自分自身に「自信」を持てるようにしていただきたい。
キャリア形成・就職支援での話のネタとしても良く出てくるものなのだが、そもそも「『マナー』とは一体何なのだろうか?」また「『マナー』と『ルール』の違いは何なのか?」…について考えてみよう。
「ルール」とは一言でいえば「決められていること」であり、それを守らないと、場合によってはペナルティー(罰則)などが課されるようなものである。例えば電車に乗る場合「指定席」とされている席は指定席料金を払わないと座ることのできない席であり、その料金を払わずに座っていれば、その指定席料金を支払うことになるか、不正とみなされると、その数倍の料金を払わなければいけない場合もある。そのようなルール違反があった場合の取り扱いのことまで含めて「決まりごと」になっているものが「ルール」だと言える。
一方で「マナー」というのは「決まりごと」ではないが、それをすることによって、その当事者の間で、もしくはその場全体の雰囲気(気持ち)が良くなる、あるいは物事がスムーズに進んでいくためのきっかけとなるような「相手や周りに対する『気配り』や『心遣い』が表現されたもの」だと言える。例えば、先ほどと同じく電車にまつわる場面で言えば、自由に座っても良い席をご年配の方や体の不自由な方に譲るというのは、まさにマナーの代表的なものだろう。
では「『ビジネス』マナー」はどういうものなのだろうか?…やはり、マナーというからには、あくまで「気配りや心遣いが表現されたもの」と考えるべきであり、つまり(極論すれば)「ビジネスマナー」とされるものの中で「これは、絶対にしなければならない」といった、ルールのような性質のものは無いということになる。
このように、ルールとマナーの違いを踏まえた上で、ビジネスマナーが、基本的には「必ずこうしなければならない」という類のものではない・・・という認識は、以前に比べれば、比較的正しくされているような印象ではあるが、それでも、いまだに面接などの指導をしていると「入室時のドアのノックは2回なのか3回なのか?」とか「お辞儀はきっちり30度でなければいけないのか?」…などといった質問を時々受けることもある。これらの質問というのは、そもそもこのようなことを「ルール=こうしなければいけない」として考えてしまっているからこそ出てくるような疑問なのである
ドアをノックするのは、これから入室することを室内にいる人に知らせるために必要であって、何も知らせずにいきなり入るのは室内にいる人に失礼だし、逆にあまりに何回もドアをたたくのも室内にいる人に耳障りになってしまうだろうから「これから入室することを室内にいる人に知らせる」という目的では、2~3回のノック適当だということだろうし、お辞儀は感謝やお詫びの気持ちを示すものだから、もし、お辞儀の角度がきっちり30度だったとしても、感謝やお詫びの気持ちが相手に伝わるようなものでなければ、その行為自体に意味は無い・・・と言えるのである。
つまり、そのような「動作の形」に「正しい答え(のようなもの・・・実際にそんなものは無いのだが)」を求めて、それを形通りにやることが大切だと思ってしまっている人は、その「動作をすること」にしか意識が無く、肝心な「気持ち」が全く入っていないので、やはり、その動作はどことなくしらじらしく映ってしまう可能性が高いし(面接官など「応募者を見ている側」は直感的に形だけの動作なのかどうかが分かる・・・というのはよく聞かれる話である)逆に、本当に気配りや心遣いが求められるような場面で、気配りや心遣いが出来ない(そもそも、その場面で気配りや心遣いが必要だと気がつかない)ために、結局、相手の印象を悪くするようなことになってしまうのである。
勿論、マナーとは言っても、特に、ビジネスマナーについては「実情」としては、ほとんどルールみたいなものだと言えるようなものもあるし(これについては次回、もう少し詳しく触れていくにする)特に、接客・サービス関係の業種・職種では「気配りや心遣いを形として示すこと、それ自体」が仕事になっているような場合もあるので、一概に言い切れるわけではない。ただ、繰り返しにはなるが、マナーというものが、気配りや心遣いという目に見えないものが目に見える形で表現されたものあることについては間違いないだろうし、特に「人のつながり・関係」で成り立っている社会の中では、そのような気配りや心遣いを形として示すことが出来るかどうかが、その人に対する人物的な評価そのものにも影響してくる場合が多いと言えるだろう。
くどいようだが、きちんとした動作・立ち居振る舞いは「『意識』があってこそ価値のある」のである。その意識が伴わず「動作としてできてさえすれば十分」などと思っているようであれば、仮に、採用選考の場面では、何とか取り繕えたとしても、その後の長い社会人生活の中で、いつかは自分自身が困る場面が出てくるだろう。それだけに、ビジネスマナーを守るとはどういうことなのか…を、就職活動が本格化するこの時期に、今一度、しっかり考えていただきたいのである。
※このコーナーで取り扱う内容は、あくまで一般的な事項として取り上げるものであり、企業・団体などにおける個別の採用選考において、具体的な効果・成果などを保証するものではありません。
バックナンバー
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第16回 | (2015年2月16日掲載 ) | エントリー・採用選考に向けて意識したいこと③ |
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