
【第19回】
エントリー・採用選考に向けて意識したいこと⑥~
「ビジネスマナー」は何のためのマナーなのか(後半)
先回はマナーの「本質的な意味」について考えてみたが、今回は、そのマナーを「形として示す」ことの意味・必要性について考えてみたい。
人というのは、自分以外の人(他人)が「今、どんな気持ちなのか」や「今、何を考えているのか」…などを「全く何も手掛かりが無い状態」から完全に読み取ることは不可能なものである。(相手の考えていることを読み取ることができる能力があるという人が、時々テレビなどで紹介されていることもあるが、その真偽は分からないし、いずれにしても、それは一般的なケースではないので、ここでは考えないことにしよう…)
それだけに、相手が発した言葉、あるいは相手の行動、さらには相手の何気ない仕草やクセ・表情・雰囲気などといったものから、相手の気持ちや考えを推測したり、解釈をしているところがある。ただし、それはあくまで、推測・解釈する側の「主観」であるため、相手の気持ちや考えをすべて正しく理解できているとは限らない。おそらく、実際に双方向のコミュニケーションが発生する場面においても、何かを表現・発信する側の気持ちや意図が正しく解釈されていない場合(いわゆる「誤解」や「認識違い」が起こってしまう場合)が相当あるのではないだろうか…。
だからこそ、相手に対する気配りや心遣いの意識・姿勢を、その相手にきちんと理解してもらうためには、そのような気配りや心遣いについて「意識はできている」というだけではなく、それをいつでも「行動で示すことができる」ように習慣付けておくことが必要になってくる。
例えば、なぜ、敬語の使い方なども含めて「言葉遣い」には気を付ける必要があるのか?…いろいろな理由が考えられるが、主な理由として考えられるのは「相手に対して敬意を示す」「社会人としての常識を身につけていることを示す」というところだろう。そして、その上で重要なことは、「その相手に対する敬意」や「社会人としての常識があること」を、きちんとした言葉遣いで話をすることによって『きちんと相手に理解してもらう』ということである。
少しイメージをしてみていただきたいのだが、能力的にもかなり優秀であり、人柄も悪くはないのだが、どうにもきちんとした言葉遣いが出来ない「Aさん」という社会人がいたとしよう。このAさんが、ある日、もちろん本人としては全く悪気は無かったのだが、相手に対して明らかに失礼だと思われる言葉を遣ってしまった…このとき、相手はどう感じるだろう。
もし、その相手が社内の同じ部署の先輩などといった「Aさんと日常的に関わりがある人」であれば、普段の働きぶりや、言葉遣い以外で感じられるAさんなりの気配りや心遣いなどから、Aさんがどんな人なのかをある程度理解できているために(その場面での言葉の間違いについてはAさんに厳しく注意しつつも)大目に見てくれる場合も多いだろう。
しかし、その相手が、普段から面識のない…例えば「取引先の担当者」だった場合はどうか…もし、初めて会った時に言葉遣いに明らかに失礼な部分があれば、おそらくそれだけで「この人は、仕事の相手としてどうこう言う前に、社会人としての常識に欠けているな…」などと思われてしまうだろうし、さらには「この会社は、社員にどのような教育をしているのか…」「こんな人を平気でウチの会社に来させるということは、ウチの会社も軽く見られているんだな…」などといったように、Aさん個人だけではなく、その「会社」そのものに対して不信感を持たれる可能性が高い。これが、まさに「社員は会社の『看板』を背負っている」ということの意味の一つだろう。
これは、Aさんの本当の人柄を理解しようとしない取引先の担当者の努力が足りないのだろうか?…言うまでもないが、そうではない。この取引先の担当者にとってみれば、初めて会った時の会話で感じ取れるもの以外に「Aさんの人柄を知る手掛かり」が無い以上、その場面での会話でのやりとりからAさんがどのような人なのかを推測したり、解釈をしたりするしかないのである…この場合は、Aさんの言葉遣いがあまりに不適切であるために「Aさんは社会人としてダメな人」だと判断され、さらにそんな「ダメなAさんを社員にしている会社」にも多かれ少なかれ不信感を相手に持たれてしまう…これは、特に「社会人なら『社会人に求められるビジネスマナー』は身につけていて当然」という考え方からすれば、当たり前のことなのである。
これが、冒頭に述べた『解釈する側の主観』ということあり、また、「相手の気持ちや考えをすべて正しく理解できているとは限らない」…ということなのである。特に、社会人になると、学生時代のように「自分の気の合う仲間とだけ」親密に付き合っていれば良いということはなく(人によって多少の差はあっても)明らかに学生時代と比べて、様々な立場や様々な特徴を持った人と関わっていくことになる。また、その関わりの程度(深さ・親密さ)も様々であって、お互いの内面的な部分までしっかりと理解できるほどの深い関わり方ができる人はそんなに多くなく、むしろ「表面的」な付き合い程度の関わり方になる人の方が圧倒的に多くなる…と言ってもよいだろう。
だからこそ、どんな立場の人が見ても「少なくとも『見ている人にとって』気分や雰囲気が悪くならない」ような気配りや心遣いをしていく必要があり、さらにそれが相手にも理解されるように行動で示していく必要がある。また、「マナー」と言えども、社会人としてそれは最低限守らなければなけないという、実質的には「ルール」に近いようなマナーが存在し、ある程度は基本的な形に倣って、それを示していかなければならない…という場合も出てくるのである。
そして、それは就職活動の段階で、完璧である必要は全くないが、採用担当者(面接官など)が「この人は、社会人として求められる意識や心構えがある程度は(まだ、実際に社会人になっていない人としてはそれなりに)できている…」という判断してくれるぐらいにはしておきたいものである。
いくら、今年度は「各企業の採用意欲が非常に旺盛」だとは言っても、さすがに、社会人としての基本的な心構えが全く意識できていない、あるいは身についていない人は「もし、この人が当社に入社しても、入社してからビジネスマナーの面で、何か問題を起こす可能性がありそうだ」⇒「そんな人は、最初から採用しない方が良い」という判断をされてしまう可能性が高いだろう。採用意欲が高い…とは言っても、数十年前とは違い、あくまで「厳選採用」の傾向であることについては、数年前から大きな変わりはない。
今回は「言葉遣い」を例に挙げてお伝えをしてきたが「身だしなみ」「お辞儀や座り方などの立ち居振る舞い」「電話の掛け方」などといったものについても「基本的なビジネスマナー」という観点からは、その考え方はほぼ同じである。
何度も繰り返すが、ビジネスマナーはあくまで「社会人として持つべき意識や心遣いが、相手に理解されるような形で表現されたもの」であり、就職活動の「スキル」や「テクニック」などといったものとは根本的に違う…そこをきちんと理解した上で、自分自身に必要なビジネスマナーはきちんと身につけていただきたいものである。
※このコーナーで取り扱う内容は、あくまで一般的な事項として取り上げるものであり、企業・団体などにおける個別の採用選考において、具体的な効果・成果などを保証するものではありません。
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第6回 | (2014年12月8日掲載 ) | 就職活動に対する心構え⑥ |
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第4回 | (2014年11月24日掲載 ) | 就職活動に対する心構え④ |
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