KEY流 就活クリニック

【第12回】

「雇用される」ということについて②~
「社会に貢献したい」という言葉をどう考えるか

今回も、志望する業界・業種などを考えていくにあたって意識しておきたいことについて考えていく。今回は「働くこと」と「社会貢献」の関連について述べていきたい。

「社会貢献」…非常に響きの良い言葉ではあるが、そのため、本質から外れた言葉の使い方をしまう人も多く、そのために、就職活動での自己アピールにうまく結びつかないケースもよく見受けられるのだが、その典型的なパターンの1つとして、まずは相談事例を紹介したい。

S君は、公務員志望であるが、希望通りにいかなかったらどうしよう…という漠然と不安に感じて相談に来た。いろいろと聞いていくと、公務員として就職できなかった時のことも時々は考えるが、民間企業への就職ということは全く考えていない様子であった。そこで、なぜ、民間企業は考えていないのかを尋ねたところ「僕は『純粋に社会に貢献できる』ような仕事がしたいんです!民間企業は『儲け』のことばかり考えなければならないじゃないですか…」という答えが返ってきた。

皆さんは、このS君の言っていることはもっともだと思うだろうか?…これは一見、高い志を持っているようではあるが、実は根本的なところで「考え違い」をしていると言わざるを得ないだろう。

「民間企業は儲けることしか考えていない。そしてそこに勤める社員は、会社により多くの利益をもたらすためにあくせく働いている…」と決めつけてしまっている人が意外に多い。そして、そのような人から、その次に出てくる言葉は「だから儲けや利益を上げることを考えなくてもよい仕事がしたい」…さらに「そうなると、公務員や警察官、公務員といった公的な仕事しかない…でなければNPOとか?」みたいなものなのである。

しかし、これは基本的に「社会がどのように成り立っているか」がよく分かっていない、あるいは、それなりに分かってはいるのだが、どこかでそれを認められない…ということから出てくるものであって、いずれにしても、これから社会人として生きていくためには、少し考え方を見直す必要があるだろう。

ここからは、少し理屈っぽいし、かなり大袈裟な言い方だと思われるかもしれないが、少しの我慢をお願いしたい。

人類が集団生活をし、「社会」という形を作り始めて以来、常に社会は何らかの「経済活動」を通じて成り立っている。「物々交換から貨幣経済に代わり…」みたいな話で、経済活動の発展が社会そのものの発展にも大きく関わっている…ということは、小学校や中学校の社会科の授業などでも教わっていることだろう。それについても、いろんな意見があるかもしれないが、とにかく、個人単位でも、一定の地域・国など大きな規模でも、もし、経済活動が完全に止まってしまえば、その社会そのものが機能しなくなってしまうのは、現実的に考えれば間違いのないことだろう。

では「経済活動」とは何なのか?…これは貨幣経済の社会では「お金は天下のまわりもの」といった言葉もあるが、簡単に言ってしまえば「日常的なお金のやり取り」である。供給者(企業など)は、それを欲している人(需要者・顧客)に対して、「モノ」や「サービス」を提供し、顧客は欲求を満たされた見返りとして対価(お金)を支払う。そして、企業は対価の中から、従業員の給与や経費を支払い、残った利益は、更に顧客の満足度を高めるための設備やサービス向上のための投資に充てる。給与や経費として支払われたお金は、それを受け取った人それぞれが、今度は消費者として、各々の欲求を満たすことの引き換えにお金を支払う…このようにしてお金が循環することで社会生活が成り立っている。何だか「経済の基本の『キ』」みたいな話になってしまったが、つまり「正当な経済活動」というのは社会生活の維持には当然に必要なものだということである。

そのように考えれば「社会貢献」というのは「『非営利な活動』や『奉仕(ボランティア)活動』などといったものでなくても実現は可能である」ことに気がつかないだろうか。つまり、会社や組織であれば「正当な経済活動を継続して行っていくこと」によって、人が働く機会(雇用)を創出し、そこで働く従業員が生活していくために必要なお金を、給与という形で支払い、さらに、利益を生み出せばその一部を税金として国や地方自治体に納めることで、公共サービスを行うための「原資」を提供しているということで「社会に貢献をしている」と言えるし、その会社で働く従業員一人一人も「所属する会社に対して労働力を提供することで、その会社を通して『正当な経済活動』に関わる」ことが、すなわち「社会に貢献している」ことだと言えるのではないだろうか。

だから、「儲けを出す」=「利益を上げる」ということに対して、一概に良くないイメージを持ってしまうのは「偏った見方」だと言わざるを得ないし、そのような「偏った見方」によって、自分が「就職先として考えられる」範囲を狭めてしまっているとしたら、それは「仕事を通じて社会貢献をしたい」と言っておきながら、逆に、その実現から自らを遠ざけてしまっていることになってしまうのではないのだろうか。

ただ、だからといって誤解をしてはいけないのは「事業活動そのものが社会貢献につながっている」と言っても、例えば、顧客(消費者)が明らかに不利益を被ることが分かっていながら、自分たちだけが儲けるためならどんな手段を使ってもよい…というわけでは無い。それは言うまでもなく「正当」ではなく「『不当』な経済活動」であるから、それは決して許されるべきことではない。しかし、残念ながら、不当な経済活動によって、結果的に罪に問われるよう人(もっと言ってしまえば、罪に問われるようなことをしておきながら、それを逃れてのうのうと生きているような人)が、どんな時代にも存在していることも事実である。ただ、くどいかもしれないが、そのような不当な経済活動と、正当な経済活動によって正当な利益を上げることで社会に貢献していることを一緒くたに捉えて「利益の追求」=「良くないこと」と捉えるのは、やはり正しい考え方とは言えないだろう。

ちなみに、先程のS君の話でも出てきた「公務員」という職業について、今日のテーマに沿ってもう一つ言うならば、確かに公務に携わる人たち「私益」ではなく、社会に「公益」をもたらすのが働く目的であるから「私益」を挙げる人たちとは違う…と考えるかもしれないが、では、そのような「公益」をもたらす役割の人たちは、誰から・どこから、その人たちの生活していくために必要な給与を得ているのだろうか?…おそらく、その最も大きな出所は「社会の経済活動によって生み出された『納税者(個人・法人)が納めた税金』」である。そう考えれば、公務員だから社会の経済活動には関係ないということはなく、むしろ「社会の経済活動が機能しているからこそ、その立場や身分が成立し得る」存在だということを意識すべきだろう。

さらに言えば「モノ」や「サービス」の対価として払うお金は、基本的に「自分の(自由)意思」で支払うものだが、税金は「自分の意思」ではなく「義務」で納めているものである。それだけに、そのお金が、もし不適切に使われていたとすれば、それが民間企業以上に強く批判されるだろうし、公務員に対する世間の見方が「十分な対応がされていても満足…ではなく「それが当たり前」、一方、不十分な対応をされた場合には、その『不十分さ』以上に大きな不満を持たれる」というようになるのは、ある意味では当然のことだと言えるだろう。それだけに「本気で公務員になりたい」人は、そのような厳しさがあることも含めて、その仕事で頑張っていきたいというような、強い意志が必要なのではないだろうか…

「社会に貢献したい」という前向きな思いを持って、自分の職業を選んでいくことは、非常に良いことである。ただ、それは、どんな仕事に携わるとしても「そのような思いは持っていて当然」…であるとも言える。繰り返しになるが、会社が「正当な経済活動によってその存在(事業)を維持・発展させていくこと」自体が、社会への貢献の一つである、逆に言えば、倒産や整理などで終焉を迎えてしまった会社は、直接的な原因・理由については様々あるにせよ、大きく捉えれば「その会社は、今のままでは社会に貢献できるだけの存在ではない」という判断をされたというようにも言えるのだろう。

以上のことを踏まえて、これから就職活動をしていく皆さんが、ぜひしっかりと考えていただきたいのは、ただ漠然と「社会に貢献したい…」ではなく、「どのような仕事(内容・役割・立場・環境・場所…など)であれば、自分の特徴(強み)を活かして、社会に貢献できるのか(貢献していきたいのか)」…である。これこそ、まさに「答えは自分の中にある」ものであり、それを明らかにするための自己分析・自己理解、また業界研究・会社研究などが非常に大切になってくるのである。毎回述べている通り、それらは大変な作業ではあるが、いざ、実際の就職活動を始めた時に、自分自身がイメージしているように進められるのかどうかを大きく分けることになるだけに、ぜひ、しっかり取り組んでいただきたい。

 

※このコーナーで取り扱う内容は、あくまで一般的な事項として取り上げるものであり、企業・団体などにおける個別の採用選考において、具体的な効果・成果などを保証するものではありません。

 

 

バックナンバー

特別編・後半 (2015年4月27日掲載 ) 一口に「就職活動がうまくいかない」と言っても…(2)
特別編・前半 (2015年4月20日掲載 ) 一口に「就職活動がうまくいかない」と言っても…(1)
第24回 (2015年4月13日掲載 ) 採用選考の面接に向けて意識したいこと⑤
第23回 (2015年4月6日掲載 ) 採用選考の面接に向けて意識したいこと④
第22回 (2015年3月30日掲載 ) 採用選考の面接に向けて意識したいこと③
第21回 (2015年3月23日掲載 ) 採用選考の面接に向けて意識したいこと②
第20回 (2015年3月16日掲載 ) 採用選考の面接に向けて意識したいこと①
第19回 (2015年3月9日掲載 ) エントリー・採用選考に向けて意識したいこと⑥
第18回 (2015年3月2日掲載 ) エントリー・採用選考に向けて意識したいこと⑤
第17回 (2015年2月23日掲載 ) エントリー・採用選考に向けて意識したいこと④
第16回 (2015年2月16日掲載 ) エントリー・採用選考に向けて意識したいこと③
第15回 (2015年2月9日掲載 ) エントリー・採用選考に向けて意識したいこと②
第14回 (2015年2月2日掲載 ) エントリー・採用選考に向けて意識したいこと①
第13回 (2015年1月26日掲載 ) 「雇用される」ということについて③
第12回 (2015年1月19日掲載 ) 「雇用される」ということについて②
第11回 (2014年1月13日掲載 ) 「雇用される」ということについて①
第10回 (2015年1月5日掲載 ) 就職活動に対する心構え⑩
第9回 (2014年12月29日掲載 ) 就職活動に対する心構え⑨
第8回 (2014年12月22日掲載 ) 就職活動に対する心構え⑧
第7回 (2014年12月15日掲載 ) 就職活動に対する心構え⑦
第6回 (2014年12月8日掲載 ) 就職活動に対する心構え⑥
第5回 (2014年12月1日掲載 ) 就職活動に対する心構え⑤
第4回 (2014年11月24日掲載 ) 就職活動に対する心構え④
第3回 (2014年11月17日掲載 ) 就職活動に対する心構え③
第2回 (2014年11月10日掲載 ) 就職活動に対する心構え②
第1回 (2014年11月1日掲載 ) 就職活動に対する心構え①

 

ログイン
有料講座の申込み・ご利用にはログインが必要です
有料講座にお申し込みいただく前に会員登録が必要になります

 → ヘルプ・サポートデスクはこちら
 
→ 究極の筆記試験対策
→ 自己表現の核心
→ 転職版「自己分析&自己表現の核心」

当ホームページに掲載された写真、テキスト等は株式会社キーキャリアがその権利を所有・管理しております。

無断での流用、転載、加工修正等はご遠慮願います。

SSL

当ホームページはセキュリティ管理、ならびにプライバシー保護のためSSLプロトコル暗号化通信に対応しています。